Written by: Tomoko Horie

「最近、寝つきが悪くなった」「夜中に何度も目が覚めてしまう」「しっかり眠れているのか不安……」。こうした睡眠の悩みを抱える方は少なくありません。日々の忙しさに追われ、自分を後回しにしてきた結果、心と身体が限界のサインを送っているのかもしれません。
今回は、「眠りから人生を再構築する」をテーマに、数多くの睡眠の悩みに寄り添い続ける専門家、おがわさおりさんにお話を伺いました。実は、深刻な不眠を経験し、自らの力で克服した過去を持つというさおりさん。なぜ眠れなくなり、どうやってその苦しみから抜け出したのか。さらに、睡眠という「心と身体の鏡」を整えることで、人生そのものをポジティブに好転させるための具体的なヒントを教えていただきました。
睡眠の悩みは「頑張りすぎ」が教えてくれるサイン
ーーさおりさんのもとには、どのような睡眠の相談が多く寄せられますか?
大きく分けると3つです。1つ目は、思考がぐるぐるして眠れないこと。2つ目は、夜中に何度も目が覚めてしまい、そこから再び眠りにつけないこと。中には、夜中に目が覚めた瞬間、強い恐怖や不安に襲われ、「この世の中で自分だけが一人ぼっちなんじゃないか」という孤独感を感じるという方もいらっしゃいます。3つ目は、どれだけ寝ても朝起きた時に疲れが全く取れていないというものです。

ーーさおりさんご自身も、以前は深刻な不眠を経験されたそうですね。当時の状況と、改善のきっかけを教えてください。
当時は熊本と横浜でエステサロンを経営し、飛行機で行き来する生活を10年ほど続けていました。その「頑張りすぎ」がたたって、大人になってからの喘息や、毎月のように高熱を出すなど体調不良が重なりました。そんな中で眠れなくなったんです。寝付くまでに1〜2時間かかり、ようやく寝れたと思っても90分後には目が覚めてしまう。
20代の頃に病院の介護現場で働いていた経験から、安易に薬に頼りたくないと考えていました。そのため、脳科学や呼吸法、分子栄養学などを独学で学びましたが、それでもなかなか抜け出せませんでした。知識だけでは解決できなかったんです。
そんな私の改善の第一歩は、信頼できるライフコーチの方に相談したことでした。専門的な知見を持つその方に今の苦しみを正直に話したら、その日に眠ることができたんです。自分一人で抱え込んでいた緊張が、誰かに話すことで解けたのだと思います。
誰に話すかは本当に大切です。一般の友人に話すと「更年期だから仕方ないよね」と流されて終わってしまうことも、専門家であれば根本的な要因を指摘してくれますから。
なぜ現代人は「過呼吸」になってしまうのか?呼吸法で自分を取り戻す
ーー夜ぐっすり眠るために日中に意識しておくべきことはありますか?
現代人は、自分の内側ではなく、仕事や対人関係など「外側」にばかり意識が向いています。常に矢印が自分以外を向いている状態ですね。だからこそ、日中に「自分自身へ意識を向ける」訓練が必要です。
特に重要なのが「呼吸」です。睡眠に悩む方の多くは、知らず知らずのうちに呼吸が浅く速くなっている「過呼吸」の状態にあります。過呼吸というと、パニックになってハアハアしている姿を想像されるかもしれませんが、現代人は忙しさのあまり、日常的に呼吸が細かく速くなっているんです。1分間の呼吸数(吸ってはいて1回)を数えてみて、もし15回以上なら、それは身体が緊張状態にある証拠です。
呼吸が速いと、脳は「今は緊急事態だ」と判断して、リラックスモードに切り替えてくれません。でも、意識的に呼吸をゆっくりにすると、脳は「今はリラックスしていいんだ」と安心するんです。私は毎日、起きてすぐだけでなく、一日のうちの何回も呼吸に意識を向ける習慣を作っています。呼吸法は、脳と自律神経を直接的に整えられる、最も強力なセルフケアなんです。

ーー夜中に目が覚めてしまった時は、どうしたらよいでしょうか?
20〜30分経っても寝付けないなら、一度ベッドから出るのがおすすめです。そして、眠くなるのを待つ。その時、ワクワクするような本を読んだり、スマホを見て情報を入れるのは避けてください。光も情報も、脳にとっては刺激になります。シンプルに、ぼーっと瞑想したり、心を落ち着ける時間を持つのが良いですね。
ーー年齢を重ねるにつれて早朝に目が覚めるようになりました。これは加齢や更年期の影響でしょうか?
年齢とともに早起きになるのは、決して異常なことではありません。人間の体内時計は加齢とともに前倒しになる傾向があるため、以前より早く目が覚めるのは自然な変化です。
ただし、睡眠のリズムを安定させるためには「朝起きる時間」を一定に保つことが重要です。休日だからといって普段より2時間以上長く寝てしまうと、体内時計が後ろにずれてしまい、それが睡眠リズムを乱す原因になります。夜寝る時間は多少前後しても構いませんが、朝はなるべく同じ時間に起きる習慣を続けてみてください。
ーー「質の高い睡眠」のために、さおりさんが実践している具体的なルーティンについても教えてください。
朝、起きてすぐはコーヒーを飲まず、呼吸法を行います。脳が覚醒しようと忙しくなっているところにカフェインを入れて興奮させるのは避けたほうがいいからです。白湯やお水で水分補給をしてから、心と身体を整えます。
夜のルーティンは、暗くなったら照明を落としてリラックスモードを作ること。スマホやテレビなどのブルーライトを避けるのは基本ですが、何より大切なのは「自分自身を労う時間」を持つことです。今日も一日頑張ったな、と自分を大切にするゆとりを、物理的にスケジュールに組み込んでください。
眠りが人生を「再構築」する――決断力と幸福の連鎖

ーー睡眠が改善されることで、人生そのものが大きく変わったと伺いました。具体的にどのような変化があったのでしょうか?
睡眠を整えることは、自分自身をケアすることで、脳の機能を取り戻すことです。眠れていない時は、脳のパフォーマンスが半分以下に落ちていたと思います。それが改善されると、疲れが取れるだけでなく、気持ちに圧倒的な余裕が生まれます。
一番大きな変化は「決断力」が戻ったことですね。以前の私は、やりたいと思っても先延ばしにしたり、挑戦することに対してブレーキがかかっていました。それが、睡眠が安定し脳がクリアになると、直感的に「これをやろう!」とすぐに行動できるようになりました。
私の場合は、10年ほど習っていたボイストレーニングも、以前は「人前で歌うなんてとんでもない」と思っていましたが、睡眠の質が改善されたことで「ステージで歌ってみよう」と挑戦できるようになりました。
さらに、婚活アプリを通じて、今の夫と出会い、結婚することもできました。睡眠不足の状態で、もし夫と出会っていても、相手との関係を築く余裕や、結婚という大きな決断をするエネルギーは残っていなかったかもしれません。睡眠によって人生のステージそのものが変わった、と実感しています。
ーー眠りから人生を再構築されていますね。
もともとは夜型人間で、朝起きるのが苦手でした。眠ること自体が苦手だということにも気づいていなかったのですが、頑張りすぎて不調も放置したまま生きていたら、ついには睡眠まで崩れてしまったんです。でも、睡眠の改善に真剣に取り組んだことで、今、自分でも「まさかそんなこと起きないでしょ?」と思えるような人生の変化を実感しています。
もっと人生を後悔なく生きたい、停滞しているなと感じている人は、ぜひ睡眠の改善に向き合ってみてください。睡眠は、自分自身の心と身体の投影です。そこを整えようという意識を持つこと、自分自身を大切にするという意識そのものが、何よりも大事な一歩になるはずです。
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プロフィール:かみのさおり眠りから、人生を再構築する専門家/更年期カウンセラー
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ライター:堀江知子(ほりえ ともこ)香港在住ライター民放キー局にて、15年以上にわたりアメリカ文化や社会問題についての取材を行ってきた。2025年からは香港に移住しフリーランスとして活動している。noteやTwitterのSNSや日本メディアを通じて、アフリカの情報や見解を独自の視点から発信中。出版書籍:『40代からの人生が楽しくなる タンザニアのすごい思考法 Kindle版』。Xアカウントはこちら |

