「超効率の街」で見失いかけていたもの。あくせくする40代の私を立ち止まらせた「香港の速さ」

「超効率の街」で見失いかけていたもの。あくせくする40代の私を立ち止まらせた「香港の速さ」

Written by: Tomoko Horie


 
 香港から、ハミング編集部の知子が日常の中の小さな気づきをお届けしていきます。読み終えたあとに、今日の自分がもっと好きになれる。そんな時間になればうれしいです。

 

世界で一番せっかちな街? 香港の「爆速」に囲まれて


香港での生活が始まって、もうすぐ2年。この街はいつも、目まぐるしいほどのエネルギーとスピード感に満ちています。

ここで暮らしていると、とにかくあらゆるものの「速度」に圧倒される毎日です。よく言われることですが、本当に何でも早い。

信号の変わる早さも早い。青になった瞬間に「カタカタカタ!」と激しい電子音が鳴り響き、まるでランナーのスタート合図のように人々を急かします。

エスカレーターもこれまた速い。日本の感覚で乗ると、一瞬おっとっと、とよろけそうになるくらい、ビューンと高速で吸い上げられます。

レストランの回転も速い。席に着いた瞬間に注文を聞かれ、数分後には湯気の立つ料理がテーブルにドン。食べ終えた瞬間にお皿が下げられるのも日常茶飯事です。

まさに「効率至上主義」の街。1分1秒をいかに無駄にせず、最大効率で動くか。それがこの街の暗黙のルールのように思えてなりませんでした。



|「僕たちにとっての休憩」日本で出会った香港人の言葉



そんな香港のスピード感を思い出させてくれたのは、日本に長く住んでいた香港人の方にインタビューをした時でした。

日本の魅力について語る中で、彼はふと懐かしそうな目をしながらこう教えてくれたのです。

「香港は、とにかくいつも急いでいて、効率を一番に考えちゃう社会。でも、日本の、丁寧に整えられた空間に入った瞬間、職人文化が守る独特の空気感に触れて心が癒やされる。僕たち香港人にとっての『休憩』なんです」

聞いた時は「なるほど、せわしない香港の人だからこそ、日本の丁寧な文化が心にしみるんだな」と、どこか他人事のように感心していました。

けれど、実際に自分がこの街に身を置いてしばらく経ったある日。私はハッと息を呑むような、恥ずかしい自分の姿に気づかされたのです。



| 爆速の街で、さらにその先を追い越そうとしていた私


ある日の夕方、私は夕食の買い物袋を両手に下げ、猛烈な勢いで坂道を駆け上がっていました。頭の中は、次から次へと湧き出る「タスクの波」でパンパンです。

「あともう少しで子供のお迎えの時間。その前にあのメールを1本返して、あの仕事のミーティングの準備もしておかなきゃ。あ、明日の朝食のパンを買い忘れた~。早く家に帰ってあれとこれを済ませなきゃ…!」


「今、ここ」に集中して、穏やかに生きよう。そう心がけていると思っていました。



ふと、自分の視界が狭くなっていることに気づきました。周りを見渡すと、ただでさえ歩くのが早いと言われる香港の人たちを、私は追い越しています。つまり、超高速回転で動いているはずの香港の人たちを、私はさらに追い越してあくせくと移動していたのです。

その瞬間、ハッとしました。

「私、この効率の街の誰よりも、生き急いでいる?」と。

実は私は、毎日の暮らしの中にマインドフルネスを取り入れています。朝の静かな時間に数分間の瞑想をし、できる日にはノートを開いて自分の感情を整理するジャーナリングだって。「今、ここ」に集中して、穏やかに生きよう。そう心がけていると思っていました。

それなのに、一歩外に出た私は、誰よりも早く、あくせくと、次の予定に向かって心を飛ばしてしまっている。一体なぜ、私はこんなにも急いでしまうのだろう?

その答えは、とてもシンプルでした。

40代になって、「やりたいこと」が多すぎるのです。

子育て、家事、仕事。それだけではなく、自分のこれからの人生のキャリア、学びたいこと、挑戦したい趣味、大切な人たちとの時間。人生の折り返し地点を過ぎたからこそ、「もっと自分を試してみたい」「もっと充実した毎日にしたい」という欲求が、心の中で高速回転していたのです。

やりたいことがたくさんあるのは、決して悪いことではありません。でも、それらをすべて「効率的」にこなそうとするあまり、私の心はいつの間にか、香港の街のスピードに飲み込まれ、自分の能力を超えたスピードで回り続けていたのでした。



| 考え方を変えたら、生き方が楽になった。今を味わうためのヒント




「このままのスピードで走り続けたら、いつか心が擦り切れてしまう。」

そう感じた私は、少しだけ自分の視点を変えてみることにしました。それは、「効率をあきらめる」という、自分への許可でした。

私たちは40代を迎えると、どうしても「もっと頑張らなきゃ」「時間を無駄にしてはいけない」と自分を駆り立ててしまいがちです。責任感の強い人ほど、周囲の期待に応えようと、高速回転を続けてしまいます。

でも、本当に、そのすべてのタスクを「爆速」でこなさなければならないのでしょうか?
考え方や視点を少し変えるだけで、驚くほど生き方が楽になります。私が実践してみて、心がちょっと軽くなったヒントをいくつかシェアさせてください。


1. 「未来の準備」ではなく「今」に焦点を当てる


移動中、次にやるべきことを考えるのをやめてみました。代わりに、高層ビルの隙間から差し込む太陽の光や、ビクトリアハーバーの海風の心地よさにもっと気を向けてみるようにしたのです。まだ完全にできているわけではありません。でもちょっとずつ「今、この瞬間」が、豊かで特別なものに変わり始めました。


2. もっとやりたいことをやっていい


効率を最優先にしているので、「役に立つかどうか」「無駄がないかどうか」で行動を選びがちでした。でも、「あ、これ楽しそう」「ちょっとあのカフェに寄ってみたい」なんていうなんとなくの直感を最優先にしてみる。10分の寄り道が、その後の1時間を何倍もクリエイティブにしてくれることに気づきました。


3. 今この時間は、二度と戻ってこない


子供の少し生意気な口答えも、家族と囲む騒がしい食卓も、この目まぐるしくも楽しい香港の街並みも、すべては「今だけ」のものです。効率よく消費すべきタスクではなく、じっくりと味わうべき今しかできない体験だと気づいたとき、足取りはいつもよりもゆっくりになりました。
40代からの人生を楽しく、そして豊かにしていくために本当に必要なのは、スピードを上げることではなく、「自分にもっとやさしくなること」なのだと思います。



| 今日は、10分だけ「ゆっくり」してみませんか?



取材した香港人の方が言っていた「空間に入った瞬間の休憩」という意味が、今ならもっとよく分かります。それは、自分の心の中に「余白」を作るということだったのだなと。

私たちは、もっと自分のペースで、もっとやりたいことを、もっと楽しんで生きていいはずです。

もし今日、あなたが「いつも何かに追われているな」と感じているのなら、ほんの10分だけで構いません。スマートフォンの画面を伏せ、次にやるべきことのリストを頭の隅に追いやって、お気に入りの温かいお茶を一口、ゆっくりと味わってみる。窓の外の雲の動きを、ただぼーっと眺めてみる。

今日だけは、一生懸命がんばっている自分に「お疲れ様」と言って、深く深呼吸をしてみてください。その10分の余白から、新しい心のエネルギーがきっと湧いてくるはずです。



 
ライター:
堀江知子(ほりえ ともこ)
香港在住ライター
民放キー局にて、15年以上にわたりアメリカ文化や社会問題についての取材を行ってきた。
2025年からは香港に移住しフリーランスとして活動している。noteやTwitterのSNSや日本メディアを通じて、アフリカの情報や見解を独自の視点から発信中。
出版書籍:『40代からの人生が楽しくなる タンザニアのすごい思考法 Kindle版』。
Xアカウントはこちら
 

Older Post Newer Post

コメントを残す