「どう教えればいい?」子どもへの性教育は、自分を大切にする生き方を伝えることから  【性教育と東洋医学の講師・久保莉子さんインタビュー】

「どう教えればいい?」子どもへの性教育は、自分を大切にする生き方を伝えることから 【性教育と東洋医学の講師・久保莉子さんインタビュー】

Written by: Tomoko Horie



子どもが成長するにつれて、避けては通れなくなる「性教育」の話題。「大切だと分かってはいても、自分自身もよく学んできていないのに、どう教えればいいのだろう?」と頭を悩ませていませんか?


今回は、元助産師で現在は「おうちで学べる性教育」や東洋医学の講師として活躍する久保莉子さんにインタビュー。家庭で伝える性教育の大切さや、子どもからの疑問にどう答えるべきかについてお話を伺いました。


久保さんのお話から見えてきたのは、性教育とは単なるからだや命の仕組みにとどまらず、「自分を大切にする生き方そのもの」であるという視点です。さらに、子どもを大切にするために、まずは親であるお母さん自身が自分を満たすための具体的なステップについてもお聞きしました。


| 夫の転勤で途絶えたキャリア。「何者でもない自分」から救ってくれた性教育との出会い


ーー莉子さんは元々助産師として働かれていたそうですが、現在のように「おうち性教育」を伝える活動を始められたきっかけについて教えていただけますか?


元々は病院で助産師として働いていたのですが、半年ほど前まで夫の仕事の都合で中国に4年半ほど帯同していました。渡航が決まった際、大好きだった助産師の仕事を一度辞めて渡航したんです。


でも、現地での生活が始まってみると、仕事のない毎日の中で「妻」と「母」という役割だけになり、「私って何者なんだろう?」と深く落ち込んでしまいました。自分の中で「助産師である自分」や仕事へのやりがいが占める割合がすごく大きかったのだと、失って初めて気づいたんですね。当時はコロナ禍ということもあり、自宅で子ども2人を見ながら、社会から隔離されたような孤独感も抱えていました。


臨床から長く離れると助産師としての復帰も遠のく気がして、「このまただの母、妻として生きていくのかな」と将来への不安が募っていたんです。


その頃、以前から興味のあった性教育を学んでみようと思いました。子どもが3歳・4歳と大きくなってきたこともあり、「我が子に伝えられたらいいな」「ゆくゆく助産師として誰かに伝えられたらいいな」という気持ちでのスタートでした。


オンライン講座の様子



ーー実際に学ばれてみて、いかがでしたか?

 

本当に良い意味で期待を裏切られました。多くの方がイメージする性教育って、生理や体の仕組み、命の誕生のことだと思うんです。でも、私が師事した助産師の先生から教えていただいたのは、「性教育とは、まず自分を大切にすることから始まる」ということでした。

 

「自分を大切にしていいんだ」「私には存在するだけで無条件に価値があるんだ」と思えることこそが、性教育のスタートだと知った時、自分が救い上げられたような感覚になったんです。

 

当時は「夫の帯同のせいでキャリアが途絶えた」と思っていましたが、あの葛葛や経験がなければ今の気づきは得られませんでした。今では中国での生活があったおかげだと心から思っています。同じように役割の変化や葛藤の中で悩んでいるお母さんたちに、この学びを伝えていきたいと思ったのが今の活動の原点です。

 

| 家庭で伝える性教育の本質は「自分を大切にするぶれない土台づくり」

 

ーー性教育が「自分を大切にする生き方の教育」というのは私もとても新鮮です。家庭で子どもに性教育を行うことが大切な理由とは?

 

日本の学校教育でも小学校高学年頃から生理や体の仕組みについて学びますが、昔から内容があまり変わっていないのが現状です。もちろんそれも大切ですが、私は性教育とは「自分の心と体を守るために必要な知識とスキル」だと考えています。

 

いくら知識やケアの方法を知っていても、前提として「自分は大切な存在だ」という感覚がなければ、自分の心と体を守るための選択をすることはできません。

 

「自分は大事な存在だ」というブレない土台があって初めて、性の知識が自分を守る武器として活きてきます。

 

現在の日本の学校教育では、自分や相手を大切にするという心の土台を学ぶ十分な時間が確保できないため、まず、家庭でその土台をしっかり築くことが重要です。家庭でその土台ができて、初めて学校で学ぶ知識の本質が伝わるのだと思っています。

 

 

ーー子どもから「赤ちゃんはどこから来るの?」など、突然の性に関する質問をされた時、親としてはどう対応すればよいでしょうか?

 

突然聞かれるとドキドキしますよね。まず一番大切なのは、怒らない・否定しない・ごまかさないことです。そういう時は「良い質問だね!」と褒めてあげてほしいくらいです。

 

子どもたちは「なんで空は青いの?」と尋ねるのと同じ純粋な好奇心で聞いています。親が眉間にシワを寄せたり誤魔化したりせず、「ママにはどんなことを聞いても叱られないんだ」「何を質問しても安心なんだ」と思える雰囲気や信頼関係を作ることの方が、答える内容以上に大切です。

 

ーー子どもと性について話す際、親として心がけていることはありますか?

 

「まず子どもの考えを聞いてみる」ということです。私にも価値観があるように、子どもにも自分の考えや価値観があります。お互いに否定するものでも、押し付けるものでもありません。

 

親がすぐに答えや価値観を言ってしまうと、子どもは親の意見に引っ張られてしまいがちです。だからこそ「〇〇ちゃんはどう思う?」と質問を返して、子どもの気持ちを先に聞くようにしています。子どもと対等な立場で互いの意見を尊重し合える関係性を意識しています。


ーー性教育を通じて「まず親自身が自分に価値があると認めること」の大切さも伝えていらっしゃいますね。忙しさの中で自分を後回しにしがちな女性が、自分を大切にするためにできる第一歩は何でしょうか?

 

一番のおすすめは「どんな自分にもマルをつけてあげること」です。


私たちは無意識に自分にバツをつけがちです。「今日も家事ができなかった」「子どもにイライラしてしまった」とできなかったことに目を向けてしまいますが、朝起きて、子どもにご飯を食べさせて、今日をできたことに目を向けて、どんな自分にもマルをあげることが大事だと思います。


「何もできなかった」と思う日があっても、「疲れていたんだね、それでもいいんだよ」と自分に優しい声をかけてあげてください。心からそう思えなくても構いません。脳は発した言葉をそのまま受け取るので、口に出して自分を認めてあげることが大切です。今日も元気に生きたからハナマル、と。


幼稚園での出前授業の様子

 

ーー自分を労わる時間を持つことも大切ですね。

 

はい。私は講座の受講生さんにも「1日5分でも10分でも、自分のためだけの時間を取ってください。『取っていい』ではなく『取らなきゃダメ』です」とお伝えしています。

 

お母さんはどうしても子どもや家族を優先して自己犠牲になりがちですが、自分が満たされていない状態で他人を優先し続けるのには限界があります。いつか「こんなにやってあげているのに」と見返りを求めてしまうことにもつながりかねません。

 

まず自分を満たし、自分に優しくして、あふれ出た余剰分で家族や周りの人を満たしていく。この順番がとても大切です。まずは自分を1番に大切にしてあげてほしいですね。

 

| 子どもの疑問や関心にどう向き合う?親が知っておきたい言葉の選び方と見守り方

 

―小4の娘がセンシティブな内容を含む本を読みたがっているのですが、「まだ早い」と反対する夫との間で悩んでいます。親はどう対応すべきでしょうか?

 

まずは親が事前に読んでみることが大切です。同意のない行為など偏った表現がある場合、誤解を生む恐れがあります。心配な描写があれば「自分の体は大切だから傷つけてほしくないんだよ」と、正しい説明を添えて一緒に読んであげてください。

 

現代は本やマンガ、動画など様々な情報に簡単にアクセスできるので、親がすべてを把握することは限界があります。ここで大切なのは、子供自身が正しい情報か判断できる力をつけることです。

 

「これは自分や相手を大切にしていない」「嫌と言っているのにやめないのはダメだ」と判断できる視点を持つこと。そのためには、日頃から「自分の心と身体は大切」という土台を家庭で築いておくことが不可欠です。

 

また、子どもが自分の体を触るような行動についても、性的な意味合いではなく安心したい・落ち着きたいという心理からのことが多いため、とがめる必要はありません。専門用語では「自慰行為」をネガティブに捉えないよう、最近では「性器タッチ」や「セルフプレジャー(自分の喜び)」といった肯定的な言葉で表現されることも増えています。「キレイなお手てで、一人の場所で触る」という安全なルールさえ共有できれば問題ありません。

 

ただ禁止するのではなく、親が内容を把握してフォローし、性に関することを恥ずかしいこと・汚いことではなく、肯定的でポジティブなものとして一緒に考えていけると良いですね。

 

ーー単純な「許可」か「禁止」かではなく、親が一緒に考えて補足していく姿勢が大切なんですね。「性器タッチ」という言葉も含め、性教育に対するハードルが下がり、ポジティブに向き合う勇気が湧いてきました。

 

そう言っていただけると本当に嬉しいです!

 

ーー最後に、莉子さんが提供されている講座について教えていただけますか?

 

現在、第4期を開講しているお母さん向けの3ヶ月間の継続講座です。性教育は一度伝えて終わりではないため、家庭での実践を習慣化できるように工夫しています。

 

内容は、日本の教育ではまだ不十分な「包括的性教育」のガイダンスに基づき、大切な知識を伝えています。

 

大きな特徴は「まず母親自身が自分を大切にすること」に重点を置いている点です。子供に本質を伝えるため、お母さんが自分を慈しむ姿を体現できるよう伴走させていただいています。さらに、心身を整えるツールとして東洋医学の「養生(心と体を整え、病気を未然に防ぐ)」の知恵も取り入れ、心と体の両面から自分と家族を守る術を学べる構成にしています。

 

 

プロフィール:

久保莉子さん

NICU(新生児集中治療室)および産婦人科での臨床経験を経て、配偶者の海外赴任に伴い中国へ。助産師の職を一度離れたことで自身のアイデンティティを見失いかけるも、性教育との出会いを機に心の在り方を再構築する。同時期に経験した自身の産後の不調や義母の看取りをきっかけに、家族の健康維持と「女性に寄り添う助産師」としての原点に立ち返り、現地にて東洋医学の学びをスタート。現在は「性教育で心の土台を、東洋医学で身体の土台を育む」をコンセプトに活動中。自身を救った2つの知見を掛け合わせ、心身ともに自分を大切にできるママを増やすべく発信・支援を行っている。

インスタグラム: https://www.instagram.com/mw_riko.k

ライター:

堀江知子(ほりえ ともこ)

香港在住ライター

民放キー局にて、15年以上にわたりアメリカ文化や社会問題についての取材を行ってきた。

2025年からは香港に移住しフリーランスとして活動している。noteやTwitterのSNSや日本メディアを通じて、アフリカの情報や見解を独自の視点から発信中。

出版書籍:『40代からの人生が楽しくなる タンザニアのすごい思考法 Kindle版』。

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